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- スペシャルコラム―【第3回】肝臓のそれぞれの働きはどのような細胞で分担しているの?(2)


解毒作用
肝臓は消化管から送られてくる有害物質や異物を処理する臓器です。その任に当たる細胞はクッパー細胞、単球由来マクロファージ、樹状細胞、肝細胞です。まず腸内細菌(たとえ善玉細菌であっても)が産生するリポポリサッカライド(LPS)などの内毒素(エンドトキシン)は、類洞内のクッパー細胞や樹状細胞によって取り込まれ処理されます。もし何かの原因でクッパー細胞が少なかったり、消滅していたりとすると、内毒素が全身に回り、重篤な状態になります。内毒素が原因で肝臓に炎症がおこりますが、炎症がおこると肝臓で単球由来マクロファージが増加し、解毒作用を助けます。このような解毒作用は、自然に身に備わるようになった防御反応で“自然免疫”と言われています。古くなった赤血球もクッパー細胞によって貪食され、そのヘモグロビンから胆汁色素が作られます。


アルコールや薬物などの化学物質は肝細胞で代謝され、排泄されます。これも解毒作用です。アルコールは体内に入ると肝臓にある酵素、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)によって毒性の強いアセトアルデヒドになります。アセトアルデヒドは、悪酔いや二日酔いの原因ともなる有害物質で、顔面紅潮、動悸、吐き気、頭痛などを引き起こします。さらに、アセトアルデヒドはアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)によって無害な酢酸になります。日本人は欧米人に比べてお酒に弱い人が多いと言われていますが、これは、日本人の半数はALDHが少ないためです。ALDHが少ないとアセトアルデヒドが十分代謝されないのでお酒に弱く、すぐ顔が赤くなったり、飲みすぎたときに気分が悪くなったりするのです。
抗がん作用

大腸がんや胃がんは肝臓に転移することがあります。それは肝臓が門脈の下流にあるためで、上流の臓器に生じたがん細胞(腫瘍細胞)が門脈を経由して肝臓に転移しやすいためです。このような転移性がん細胞や、肝臓に発生する肝細胞がんに対して果敢に挑戦を挑む細胞がナチュラル・キラー(NK)細胞です。またこの細胞は“ピット細胞”とも呼ばれます。NK細胞はがん細胞に接着し、顆粒中に含まれているパーフォリンを放出し、がん細胞の細胞膜に孔をあけて殺す「殺し屋細胞」です。しかし「殺し屋」の方が負けるとがん細胞はどんどん増殖することになります。
コラーゲン線維の産生
体の中の結合組織は主に線維形成細胞とその細胞がつくる細胞外マトリックスからできています。肝臓の線維形成細胞は、肝星細胞とその兄弟細胞である筋線維芽細胞です。肝星細胞は類洞内皮外側のディッセ腔内に位置しており、ビタミンAを貯蔵していることはすでに述べました。筋線維芽細胞は肝星細胞と平滑筋細胞との中間に位置する細胞で、グリソン鞘や中心静脈周囲、肝臓被膜に分布しています。これらの線維形成細胞(肝星細胞と筋線維芽細胞)がつくる細胞外マトリックスの代表はコラーゲン線維です。肝臓の組織が障害をうけると、次のように修復されます。
- ①
- 傷ついた細胞がマクロファージ等によって取り除かれます。
- ②
- 取り除かれた部分を一時的に補うために肝星細胞や筋線維芽細胞が増殖し、コラーゲン線維で埋められます。
- ③
- 傷ついた範囲が狭かったり、原因が一次的なものであれば周りの細胞が増殖し、同時にコラーゲン線維が除かれてまた元の状態に回復します。
- ④
- 習慣的な飲酒や慢性肝炎等で肝臓が持続的に傷つけられるような状態になると、肝細胞破壊と修復が繰り返されます。修復が追いつかなくなるに従い、肝星細胞や筋線維芽細胞が増殖し、コラーゲン線維が多量に造られるようになります(肝線維化)。さらに慢性的な障害が続き、重篤な症状になると肝硬変と言います。

まとめ
肝臓の働きは極めて多彩です。肝臓を構成している細胞がすべて発見され出揃ったのは、ようやくこの20~30年のことです。新しい細胞が発見されると、その細胞の構造と機能が研究され、その結果肝臓の新しい働きが付け加わったこともありました。また肝臓の病気の原因も細胞レベルで説明が付けられるようになりました。今回のホームページには肝臓の機能とそれを担当する細胞を列挙しましたが、それぞれの細胞だけで、それらの機能を発揮しているのではありません。それぞれの細胞は互いにサイトカインという信号を出し合って協調し、制御しながら働いています。そのようなネットワークが各種細胞間に張りめぐらされていると想像すると、図体が大きくてボヨンとした肝臓も実に精密でデリケートな器官であることがお分かりいただけるでしょう。